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【書評】『中国の行動原理』(益尾智佐子)

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友人の友人が書いた本という事で読んでみました。最初にお断りしておきますが、この本は作者自身が後書きで書かれているように、学術書のように細かい理論と実証を積み重ねていく本ではなく、筆者の想いをざっくりと直感的に語った本である。これが逆に内容を面白いものにしていると感じる。中国の行動原理について、方程式が示されていて、この本を読めば予測できるようになる、という訳ではないが、読み物としてなかなか面白い良書である。

 

内容紹介

世界各国と軋轢を起こす中国。その特異な言動は、米国に代わる新しい国際秩序への野心、国益追求、さらには中華思想だけでは理解できない。

本書は、毛沢東・鄧小平から習近平までの指導者の意志、民族の家族観、秩序意識、イデオロギーの変遷、キメラ経済、政治システムなどから、現代中国の統治の中心にある中国共産党の行動原理について明らかにする。彼らはどのような意図、ルールのもと、国家を動かしているのかを描く。

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<目次>

序章:国内力学が決める対外行動
第1章:現代中国の世界観
第2章:中国人を規定する伝統的家族観
第3章:対外関係の波動
第4章:政経分離というキメラ
第5章:先走る地方政府
第6章:海洋問題はなぜ噴出したか
終章:習近平とその後の中国

 

著者紹介

1974(昭和49)年佐賀県生まれ.東京大学教養学部教養学科第三類(国際関係論)卒業.東京大学大学院総合文化国際社会科学専攻博士課程修了.日本学術振興会特別研究員,日本国際問題研究所研究員,エズラ・F・ヴォーゲル研究助手などを経て,2008年より九州大学大学院比較社会文化研究院准教授.

専攻・国際関係論、中国の対外施策.著書に『中国政治外交の転換点』(東京大学出版会,2010年).共著に『日中関係史1972~2012』(東京大学出版会,2012年),『チャイナ・リスク』(岩波書店,2015年)『中国外交史』(東京大学出版会,2017年)他多数.訳書にエズラ・F・ヴォーゲル著『日中関係史』(日本経済新聞出版社,2019年).共訳書にエズラ・F・ヴォーゲル著『現代中国の父 鄧小平』上下(日本経済新聞出版社,2013年)

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感想

2012年の尖閣諸島国有化問題に端を発した反日デモはまだ記憶に新しく、2019年以降の急激な関係修復、日中友好ムードに違和感を持つ人は多いと思う。

 

一般的には、米中貿易戦争により、中国が日本との関係修復に舵を切ったと説明されるし、これはその通りであるが、その後ろにある中国(中国人ではなく中国政府)の行動原理は何なのか?

 

ネオ・リアリズムはリアリズムを理論的により単純化し、国家の行動は国際行動によってほぼ自動的に決まると考え、一国の政策決定に対する国際的な要因を絶対視する。

 

しかし、著者はこれでは中国の行動を説明しきれないとしている。例えば、マサチューセッツ工科大学の研究に触れ、領土問題についても、中国はこれまでの領土紛争(国境問題)を見てみると、係争地域の半分以上の面積を相手方に譲っており、これはインドの面積を上回る面積だとしている。中国は、話し合いによる問題解決にかなり協力的だが、国内政治が不安定な時には対外的な武力策に出やすいと指摘している。

 

また、歴史の長い中国だけに、

 

中国人にとって、自国が他国に内政干渉したり、武力で言う事を聞かせたと考えることは不快なのだ。彼らは必ず、他国は自国の徳の高さに感銘して自主的に自分に賛同したと考えたがる。

 

と指摘しており、これは非常にその通りだと思う。単純な中国中心の中華思想ではなく、複雑な思いと、自負が中国にはあるのである。

 

これらを前提として、中国社会・組織の特徴を「外婚制共同体」としている。中国の家族は、近親婚を許さず外部から人を取りこみ、また、日本のように長男が全てを相続するような社会ではなく、子供たちは平等に財産を分配される共同体的な構造となっている。

 

このような社会の構造の特徴は、

 

家父長と息子たちとの一対一の関係性の束で成り立っている。

中国の組織では、従業員間の下克上の可能性が十分にある。

共同体にとって最も危険ななのは、息子たちが同盟して唯一の権力者の父親を排除する「神殺し」「父殺し」のリスク

 

としている。絶対的な権力を持つ家父長が有能であれば息子たちは従おうとするが、少しでも弱さを見せると、息子たちは拡散し、バラバラに動こうとするというのは、長い間中国に関わっていると非常に納得感がある。

 

ガチガチの中国のローカル会社でよく感じるのであるが、組織のリーダーが絶対的な権力を持っており、トップダウンで会社を運営しているが、有能でないリーダーの元では部下たちは上司を助けて会社を盛り上げていこう、といような日本の会社にあるボトムアップの動きはあまりない。そして、組織が崩壊するか、リーダーが交代するまで目立たないようにじっと待っているような事があるのをよく見る。

 

そして、現在の習近平国家主席を、伝統的な中国の社会制度では、非常にオーソドックスで、正統的な指導者で、強い力を持っているとしつつも、習近平の引退後の将来に懸念を投げかける。

 

中国の社会秩序には家父長の生命力に応じたサイクルがある。家父長が長い時間にわたって上からの統制圧力をかければかけるだけ、息子たちの間には不満が累積し、圧力がなくなった時の拡散力が強くなる。

 

もちろん、中国が将来どうなるか、という事に答えは無いのであるが、強い求心力があれば、将来遠心力がある程度は働くものである。そして、それは、次の強い家父長でなければ防げないという事である。

 

冒頭でも話した通り、この本は作者の考え方をざっくりと語っている本であるが、共産党の歴史、国家海洋局、広西チワン族自治区などの具体例もかなり詳細に紹介されており一読に値する

 

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