前回は深センの特徴を見てきたが、今回はちょっと範囲を広げて中国全体のイノベーション力を考えてみたいと思う。なお、最初に結論を言っておくと、中国のイノベーション力はアメリカとほぼ同等で、すでに世界一クラスとなっている。アメリカと中国はその他の国を圧倒的に引き離して突出しており、日本はイノベーションではまったく世界最先端になっていない、ということは認識しておくべきであろう。また、それを支えているのが、日本の学部卒など足元にも及ばない英語を自由に操る圧倒的なエリートたちである。
都市別のイノベーション比較(世界編)
ちなみに、前回も使った比較で見てみると、中国イノベーションの中心地である北京や深センに比べて東京が得意なイノベーションなんてこの程度のものであろう。もちろん、シリコンバレーはすべての面において別格なのであるが、いまやそれに対抗できるのは、イスラエルやロンドン、そして中国くらいであると感じる。
深セン |
北京 |
シリコンバレー |
東京 |
|
製造 |
〇 |
〇 |
||
ロボティクス |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
AI |
〇 |
〇 |
〇 |
|
BigData |
〇 |
〇 |
〇 |
|
フィンテック |
〇 |
〇 |
||
ブロックチェーン |
〇 |
〇 |
〇 |
|
教育テック |
〇 |
〇 |
〇 |
|
バイオ |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
世界の大テーマとなっているAIやビッグデータについては、現在では日本は世界の最先端をまったっく走っていない。ソフトバンクがこの分野に積極的に投資を行っているが、最先端の研究や開発はまったく日本では行われていない。そのよう中で、世界のホットトピックスとなっているAIを例にもうすこし詳細をみてみたい。
中国のイノベーション、ベンチャーに流れる莫大な資金
AIへの投資額
ちょっと手元にあるのが2016年までの数字なのだが、中国のAIへの投資額を見てみるとアメリカの2倍以上となっている。ちょっと過熱気味でこの後、投資が鈍化することにはなるのであるが、それでもものすごい金額の投資が中国のホットなイノベーション領域には流れ込んでいる。ベンチャーを起こして成功した中国人が、また新しいベンチャーに投資をする、という循環が中国ではかなり活発に機能している。
ちなみに、これを支えているのが、アメリカのMITやスタンフォードに留学してAIなどの最先端技術を学んで帰国する”海亀”と呼ばれる中国の超エリートたちである。グーグルなどに入社して、その技術を盗んで中国企業に入手するなどとだいぶ非難はされてはいるが・・・。
なお、中国側ではこのような優秀留学生に奨励金を渡して帰国される政策などもあり、実際に深センにもそのような1000人計画などの制度がある。特に、中国IT企業はAI技術者に対して法外な報酬を提示(2000万円、3000万円は当たり前で最低水準)するため、バブルが発生している、などと中国でもかなり非難されていたりはすわけである。
ハイレベル教育と優秀な留学生たち
いまや日本の若者は海外に留学にいきたがらない、などと言われているが、日本の教育レベルの低下と世界と比較した場合の低い留学比率は間違いのない事実である。しかし「日本は世界最先端の裕福な幸せな国、なんで海外になんていかないといけないの」と思い込んでいる日本の若者が多いのもまた事実である。
イギリスのQSが発表している世界TOP300大学数を見ると、中国はすでに日本を圧倒的に凌駕している。大学ランキングを見ても、東京大学が北京大学や清華大学に抜かされる、というような事態が発生している。ちなみに、東大はいまや香港大学やシンガポール大学よりも下といわれており、情けない限りではあるが。
留学生を見てみると、人口の差を考慮しても中国の留学生の多さが圧倒的である。アメリカの大学のキャンパスで東洋人をみたら中国人と思え、というのもあながち誇張した表現ではない。2011年からの伸びを見ても中国は圧倒的である。米中貿易戦争により中国人留学生がビザ更新できずに帰国しているという話もあるようであるが。
この背景には、
・もちろん中国人が裕福になって留学の余裕ができた
・そもそも一人っ子政策で、一人の子どもへの教育熱がすごい
・超競争社会のため、高学歴でないと勝ち残っていけない
というような理由がある。共産党のハイレベルな幹部を見ると、博士号の超高学歴エリートが揃っている。特に政治と経済の世界では、日本のように低学歴でも生き残っていけるようなシステムとは程遠い世界となっているのであろう。私の知り合いでビジネス世界である程度活躍しているエリートたちは最低でも院卒であり、ダブルディグリーや博士号もたくさんいる。文系では学卒ばかりの日本とはまったく異なっている。
以上、中国のイノベーションの力とそれを支える教育についてみてきた。こういう記事を書いていると、日本情けない、と本当に思ってしまう。日本の若者もグローバルに目を向けて、もっと学問を愛してほしいと願ってやまない。