中国軍は少し前までは、人数は多いものの、装備が旧式で実戦では役に立たないと言われていました。しかし、昨今では、経済の急速な発展と、科学技術力の向上により、装備の近代化をものすごい勢いで進めており、急激に軍事力を強化しています。
ここで皆が疑問をもつのが「で、結局、中国軍は強いの?」ということですが、今回は、そこら辺を、日米中の比較を中心に、あまり専門的になりすぎないように考察していきたいと思います。
※今回の内容はYoutubeで動画としてもアップされています
まず最初に昨今の中国軍に対する評価の論点を見てから、世界における中国軍の客観的な位置づけ、中国軍の体制とその指揮命令系統を確認し、兵力を日本、アメリカとの比較でみていきたいと思います。そのうえで、結局中国軍は強いのか、について多方面から検討していきたいと思います。最後に、すこし閑話休題となりますが、ウクライナの教訓について思う所を少し述べて終わりにしたいと思います。
なお、この動画は、自衛隊を礼賛し、中国軍弱いと阿Q正伝のような精神的勝利で満足する動画ではありませんのであらかじめご了承下さい。それでは早速いきましょう。
中国軍に対する評価の論点
日本、そして世界の論調を見ると、中国軍に対する評価には大きく異なる二つの意見があります。
脅威派:中国軍は近年急速に軍事力の近代化を進めており、その軍事力はすでに自衛隊を凌駕し、米国に並ぼうとしている
張りぼて派:量的には拡大しているが張りぼての空母に代表されるようにその兵器は結局まったく役に立たない
日本でニュースを見ていると、希望的観測も含めて、張りぼて派の論調が多いように見受けられます。日本の軍備拡大に反対する人たちにもこの意見を持っている人が見受けられます。もちろん、私個人としてもそれが事実であれば非常に良いと思うのですが、もしも脅威派の意見のように、その実力が米国と並ぶほどのもであったら、日本国そして日本国民にとっても非常に大きな脅威となります。
今回はこの二つの意見を頭に入れつつ、実際にはどのようになっているのかを、少し客観的に検証していきたいと思います。
最新の世界軍事力・軍事費ランキン
世界の軍事力ランキング
1 United States: 0.0453
2 Russic : 0.0501
3 China : 0.0511
4 India : 0.0979
5 Japan : 0.1195
出典:https://www.globalfirepower.com/countries-listing.php
まず最初に、日本と米国、中国の軍事力を客観的に見ておきたいと思います。グローバル・ファイヤーパワー(Global Firepower)が2022年に発表した最新の世界の軍事力ランキングを見てみると世界1位は米国で、中国は3位、日本が5位となっています。日本も最近では、いずもの空母化やF-35Bの導入など軍事力強化に力を入れており、あくまでも専守防衛に徹した自衛隊という位置づけでありながら世界5位の軍事大国となっています。
世界の軍事費ランキング
1位:米国 100兆円
2位:中国 38兆円
3位:インド 9兆円
4位:ロシア 8兆円
5位:イギリス 8兆円
~
9位:日本: 6兆円
2021年の軍事費を見てみると、世界1位はもちろん米国の8010億ドルで、為替レート1ドル=130円で計算すると、100兆円となり日本の国家予算とほぼ変わらないという天文学的な金額を積み上げています。そして、中国は世界2位で2930億ドル、日本円換算で38兆円で27年連続の増加となり、この2か国だけで、世界の軍事費の半分を超えることになります。3位以下はドングリの背くらべとなりますが、日本の防衛費は世界9位となり、6兆円強となります。
ちなみに、日本は10年程度の軍事戦略を決定する国家安全保障戦略の改定を2022年に控えており、この中でこれまでGDP1%とされた軍事費を2%に引上げようとしています。これが実現すると日本の軍事費は10兆円を超える事になり、一躍世界3位に躍り出ることになります。
中国軍の体制
<中国軍の総軍事力> 人民解放軍+武装警察+民兵
次に、中国軍の体制を見ておきたいと思います。中国の軍事力は人民解放軍のみではなく、準軍事組織となる武装警察と民兵の合計と中国の国防法では規定されています。この中で主力は当然、中国人民解放軍となりますので、今回は武装警察や民兵の詳細は話しませんが、中国の軍隊は中国共産党の指導を受けるとしており、実質的には共産党の軍隊が国軍になっているという建付けです。日本でいえば、自民党の軍隊が自衛隊を名乗っているようなものですが、そもそも中国は、国家自体が共産党の指導を受ける、と憲法で規定されている国家体制となるため大きな問題ではないと認識されます。
中国軍の正式名称、中国人民解放軍という名前は1947年から共産党により使用されています。第2時世界大戦時は協力していた中国共産党軍と中華民国軍は、1946年には内戦状態に入ります。共産党は、当時中国大陸を支配していた中国国民党から人民を開放するとして、人民解放軍を名乗り、以後この名称が現在まで継承されています。
<米軍の6軍種>陸軍、海軍、空軍、海兵隊、宇宙軍、沿岸警備隊
<人民解放軍の5軍種>陸軍、海軍、空軍、ロケット軍、戦略支援部隊
<自衛隊の3軍種>海上自衛隊、陸上自衛隊、航空自衛隊
人民解放軍は、陸軍、海軍、空軍、ロケット軍、戦略支援部隊の5軍種からなります。ちなみに、日本は海上自衛隊、陸上自衛隊、航空自衛隊の3軍種のみで構成されていますが、アメリカ軍は、陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊、宇宙軍の6軍種で構成されています。中国のロケット軍はあまり聞きなれないかもしれませんが、昔から組織としては存在したものが、2015年に正式にロケット軍と命名され、陸海空軍と並ぶ軍種となりました。また戦略支援部隊も2015年に正式に軍種となりましたが、詳細は不明となっています。ただし、その旗印がアメリカの宇宙軍に酷似していることからも分かる通り、電子空間、ネットワーク、宇宙における支援を任務としていると言われています。
中国軍の指揮命令系統
中国軍の最高司令官は誰なのかというと、現在では習近平となります。しかし、これは国家主席という立場で軍を統率しているわけではありません。中国人民解放軍は中国共産党中央軍事委員会の指揮下にあり、この共産党中央軍事委員会の主席が事実上の中国軍の最高司令官となります。ちなみに、一応、国家中央軍事委員会という名前の組織もありますが、中国共産党中央軍事委員会の主席がこれを兼務することになっており、共産党軍事委員会の方が国家軍事委員会よりも上位となります。
古来、中国では軍隊のトップが大きな力を持っており、人民解放軍のみならず武装警察や民兵などのすべての武装兵力の指揮官となる、この中央軍事委員会の主席が事実上の国家のトップといっても過言ではありません。毛沢東は大躍進政策の大失敗により1959年に国家主席の座を劉少奇に譲りますが、中央軍事委員会の主席には1976年に亡くなるまで居座り続けました。また、鄧小平は公式な国家の役職としては国務院副総理までしか務めていませんが、裏では共産党中央軍事委員会の主席となっており、当時の国家主席であった胡耀邦や超紫陽を解任するなど、国家主席をはるかにこえる権力を握っていたことはとても有名です。
ちなみに、毛沢東の有名な語録に「政権は銃口から生まれる」がありますが、毛沢東や鄧小平は、政治家としての顔も持っていましたが、国民党との内戦を戦った軍人でもあったので、彼らが生きている限り文民統制とはなりませんでした。毛沢東と鄧小平により「中国の権力は軍隊により裏打ちされる」という既成事実ができると、逆に、この反省を生かして、二重権力体制とならないように、国家主席が中央軍事委員会主席を兼務するようになります。このポストは、日本のニュースではあまり報道されることのない、馴染みのない役職ですが、中国の軍隊の最高指揮官としてとても重要なポストとなります。
なお、共産党がこのように軍事力をその統治の正当性の基盤としており、天安門広場や香港の民主化運動を鎮圧する際に国民に対して大規模に軍隊を用いていることからもわかるように、共産党政権は多分に軍事独裁政権の性格を持っていることは覚えておくべきでしょう。
日本の場合は自衛隊の上に防衛大臣がおりその上のトップが内閣総理大臣という体制となります。米国も同様で、軍隊の上には国防長官がおり、最高司令官は大統領となります。米国大統領は軍の最高司令官として、つねに核発射ボタンがはいったアタッシュケースを持ち歩くことでも有名です。
兵力の日・米・中比較
現役総兵員数
米国:139万人
中国:200万人(+武装警察70万人、民兵800万人)
日本:26万人
それでは兵力はどのようになっているかというと、現役総兵員数でいうと、中国の軍隊である人民解放軍は200万人強、米国は139万人、日本の自衛隊が26万人となっています。
中国はこれに加えて、準軍事組織として国内の治安維持にあたる武警と呼ばれる武装警察が約70万人、民兵が800万人いるとされています。武装警察や民兵は主に治安維持に動員されることが多くなっています。民兵という概念は、日本にはないため分かりにくい位置づけの組織ですが、通常時は普通に会社員や農業・漁業などの仕事をしながら、一定の軍事訓練を行っているとされています。尖閣諸島に漁船としてあらわれる人々がまさに民兵が偽装した漁師であると言われています。また、尖閣諸島国有化問題で中国において大規模なデモが発生したりもしましたが、あれも民兵が動員されているのではないかと言われています。
なお、中国は、装備の近代化を進めており、総兵員数は削減する方針を打ち出しています。ちなみに、自衛隊は慢性的に兵数不足とされている一方、米国も中国同様に兵員数の削減の方針を取っています。
それでは、陸海空軍の詳細を見ていきたいと思います。
陸軍
兵員数
米国:50万人
中国:130万人
日本:15万人
まず陸軍ですが、中国の陸軍が約130万人と言われるのに対して、米国は約50万人で中国の陸軍は2倍以上となります。ちなみに、自衛隊は約15万人とされており、兵員数では圧倒的な差があります。それもそのはずで、中国と米国は日本の26倍と言われる広大な国土面積を誇っており、どうしても陸軍の数字が大きくなるのですが、米国が北米大陸を友好国のカナダとほぼ占領しているのに対して、中国は陸上で多くの国と国境を接しており、そのうちインドやベトナムとは紛争も抱えているため、米国以上の陸軍が必要となります。
戦車保有数
米国:6000
中国:6000
日本:700
保有する戦車を見てみると、アメリカと中国はともに約6000台と拮抗していますが、海洋国家である日本はかなり見劣りする700台となっています。
各国の主力戦車
主力戦車を見てみると、1980年に就役したアメリカの超有名なM1エイブラムスが第3世代戦車に当たるのに対して、現在は第4世代への移行期にあたり、第3.5世代戦車が主力となっています。アメリカ陸軍と海兵隊も採用するM1エイブラムス改良型は、湾岸戦争でも投入され、対戦車戦において現在まで最強戦車の異名を保持し続けています。
日本の主力戦車といえば2011年から配備されている国産の10(ひとまる)式戦車となりますが、これは自衛隊という性格上、国内での運用が想定され、日本の狭い道路や橋などを渡れるように軽量化され機動力が高くなっています。日本での戦場を想定した場合、10式戦車は最高クラスの性能を持っていると言われています。
中国の主力戦車は99式戦車となり、これは火力ではアジア最高と評価されており、現在まで約1200台生産されています。また、2019年の中国建国70周年軍事パレードで初めて公式の場に姿を現した日本の戦車よりも小型軽量な15式戦車は、軽戦車に分類され、主にチベットなどでの運用を想定した高い機動力を持った仕様となっています。中国はチベット独立の動きや高山を挟んでインドとの紛争も抱えるため、世界ではあまり運用されていない、軽戦車というジャンルの戦車を開発したと言われています。99式戦車が50トンを超えるのに対し、15式戦車は30トン台で、日本の10式戦車の40トン台よりもかなり軽量となっています。そのため、高原の猛虎などと呼ばれたりもします。
中国の99式戦車と日本の10式戦車を比べると、火力、攻撃力は99式戦車の方が上であると言われており、スペック上は世界で見ても最強戦車の一つであるとされていますが、実戦での実力は未知数です。ちなみに中国の15式軽戦車は、攻撃力と防御力で日本の10式戦車より一回り劣るとされます。
空軍
兵員数
米国:37万人
中国:40万人
日本:4万人
戦闘機保有数
米国:13000
中国:3200
日本:1600
各国の主力戦闘機
次に、空軍を見てみましょう。アメリカの航空戦力は1万3000機以上で、世界的に見ても2位のロシアの3倍以上を誇る圧倒的なトップとなっています。主力は圧倒的世界最強戦闘機として有名な最新鋭の第五世代戦闘機となるF-22ラプターと、やはり世界最高クラスの性能を誇るベストセラーとなったマルチロール機である第五世代戦闘機F35ライトニング2となります。日本の航空戦力は1600機となり、アメリカから導入しているF35がやはり主力となりますが、アメリカが2500機近いF35を保有しているのに対し、日本は100機程度にとどまっています。しかし、この100機でもアメリカを除いた世界ではNO.2の保有数となります。その他の日本の主力機は第4世代となるF-15J、第4.5世代となるF-2などが約300機で、他に特筆すべきは空飛ぶレーダーE-767AWACS(空中警戒管制機)4機を有し、その実力は非常に高いと言われています。
中国の航空戦力は3200機となり、世界3位の規模となっています。主力機は米国のF-22ラプターに対抗するために独自開発された殲-20(J-20)であり、これは世界的にも3番目となる最新鋭第五世代ジェット戦闘機に分類されます。しかし、このJ-20は機体も大きく、飛行時の姿勢安定性を確保するため前方に小さなカナード翼をつけているため、F22やF35に比べるとステルス性能に劣ると言われています。
実態は分かりませんが、F22と比べるとJ20のステルス性能は100分の1程度という分析もあり、その場合、J20は有視界ではF22の接近やミサイル発射に気づくこともなく、気づいた時には撃墜されている、という分析もあります。J20とF35を比較すると、F35が上回るものの、圧倒的な差があるわけではないと分析されています。しかし、このF35はスペックを見ても分かる通り小型のマルチロール機であり、また高いステルス性能とF22を上回るとも言われるデータリンク機能を活かして偵察までこなす機体であり、空対空のドッグファイトを行うような想定ではないとされます。
海軍
兵員数
米国:40万人(海兵隊17万人)
中国:24万人
日本:4万人
主要艦艇保有数
米国:300
中国:350
日本:50
各国の主力艦艇
現在、主要な艦艇数を見てみると、中国の海軍は世界最大となる約350隻の船を有していると言われています。一方、世界最強のイメージがある米国は約300隻、日本は約50隻となっています。しかし、中国の海軍は沿岸警備などの小型船が多数なのに対して、大型船、とくに空母になると米国の原子力空母が11隻、また空母相当となる強襲揚陸艦を含めると20隻となるのに対して、中国は1980年代に旧ソ連が設計した空母をベースに改装した「遼寧」「山東」の2隻となり圧倒的な差があるとされています。米国の原子力空母でほぼ無制限に巡行でき、それぞれの空母には60機以上の航空機が搭載可能となっているのに対し、中国の空母はスキージャンプ台方式のためフル装備の航空機を飛ばすことができず、装備や燃料を満載にはできない旧型のJ-15戦闘機などを30機前後搭載しているのみにとどまっています。
ちなみに、中国は長い間、世界有数の海軍力を持つ日本と、世界最強の米軍に太平洋への出口に蓋をされた形になっています。そもそも、古来より日本は中国の太平洋への蓋となってきました。日本は古来より、中国の文化を受け入れながらも、中国の冊封体制に組み込まれることを拒否し、明王朝時代の倭寇など、中国の太平洋進出を常に邪魔してきました。それは日本の独特の位置条件、すなわち四方を海に囲まれて、それを自然の城壁として、沖縄まで含めると中国の海岸線をほぼ蓋しているという極めて特殊な位置が大きく関係しています。清王朝末期に、中国の虎の子と言われて、日本以上の実力を持つと評価されていた北洋艦隊が日清戦争で大敗して以降、日本は第2次世界大戦で敗北しつつも、第一列島線、第二列島線で中国を封じ込めてきたため、中国は常に日本の海軍力を排除することを悲願として来ており、現在、120年以上ぶりに中国がその機会を得ている状況となっています。
特に、中国は、民主化を進める台湾が行った1996年の総統直接選挙前に台湾海峡で大規模なミサイル演習を実施してこれを威嚇したものの、米国が派遣した空母打撃群に威圧されて演習を中断させられたという苦い経験があり、このような経験から、中国は海軍力の強化、特に空母の開発を急いでいます。
現時点では中国の遼寧と山東はアジアでは最強という位置づけにはなっていますが、それは単純に敵対する者がいないだけで、その実力は高くないとされています。しかし、中国は現在、三隻目の空母となる電磁式カタパルトを積んだ最新鋭の空母を開発しており、2022年中の公開、2024年までの配備を目指しているとしており、これが配備されれば、アジアにおける海軍のパワーバランスが一気に中国に傾くとされています。
日本は現時点では空母は保有しておらず、ひゅうが型2隻、いずも型2隻というヘリコプター搭載護衛艦4隻体制となっています。このうち、いずも型を2026年をめどに空母に改修する計画を進めています。そのため、短距離離陸・垂直着陸が可能なF35のB型の取得を進めており、最終的には40機以上のF35Bを配備する予定となっています。すでに、F35Bのいずもへの離着陸試験も2021年から始まっています。いずもの2番艦「かが」の空母化も行われるため、2026年以降、日本はひゅうが型空母2艦という体制となりますが、この空母は排水量2万トン、艦載機11機クラスの軽空母となり、アメリカのフォード級の10万トン80機、中国の遼寧6万トン50機よりかなり見劣りする規模となります。敵地へ派遣して敵軍と交戦するという攻撃型空母の用途よりも、どちらかというと離島防衛のための防御型の空母という感じになると思います。
ちなみに、空母以外の日本の海軍の実力を確認しておくと、日本はアメリカから調達した「はぐろ」などのイージス艦を8隻もっており、これは非常に高い迎撃能力をもっています。しかし、中国の物量に対して量が足りないという指摘もあり、陸上に設置するイージス・アショアの導入が検討されたこともありますが、これは頓挫しています。ちなみに、中国も中国版イージス艦の配備を進めており、特に2020年から配備が始まった055型と呼ばれる南昌級駆逐艦のカタログ上のスペックは非常に高く、日本にとっては脅威となる とされています。最終的には中国版イージスは20隻ほど配備される見通しとなっています。このイージス艦は空母を運用する際にはとても大切で、空母をミサイル攻撃から守る盾ともなり、空母の配備を進めている中国が中国版イージスの配備を急いでいる理由はまさにここにあります。
その他に、日本の実力が高いと言われているのが潜水艦となります。中国の潜水艦は約70隻で、原子力潜水艦とその護衛潜水艦が約10隻で、これは核弾頭を搭載するものでこれが戦闘に参加することはありませんので、その他の通常動力型の潜水艦が60隻となります。ちなみに、中国の潜水艦といえば「太鼓を叩くほど騒音を出す」と皮肉られるほど探知が容易であると言われています。潜水艦は海中に潜んで情報を収集したり、空母など撃沈するためには静粛性が非常に大切ですが、中国の潜水艦の半数以上はこの騒音タイプの潜水艦と言われていますが、20隻ほどの潜水艦は性能が良い中国国産の元(ユアン)型となっています。
対する日本の潜水艦は約20隻ですが、その実力は世界1,2を争うとされています。なかでも約半数を占めるそうりゅう型潜水艦の後期型とその後継となるたいげい型潜水艦は、ディーゼルエンジンに加えてリチウムイオン電池による駆動装置を搭載しており、その静粛性から発見するのが非常に困難であるとされています。原子力潜水艦(原潜)を除けば世界最大級の大きさとなり、海中に潜んで、日本に上陸しようとする船を撃沈させて上陸を阻む、日本における海の防衛のかなめとも言われています。
潜水艦に合わせて見逃せないのが、敵の潜水艦を見つけ出してこれを撃沈する哨戒機P-3Cを日本が70機以上配備している点で、上空からソナー(水中レーダーのようなもの)を仕込んだブイを落とし、潜水艦を探知したら専用の魚雷を発射して撃沈します。また、より高性能の国産哨戒機P-1もすでに30機ほど配備が開始されており、日本の護衛艦やヘリコプターが持つ対潜水艦攻撃能力も含めて日本の潜水艦キラー能力は絶大なものであるとされています。冷戦時代にアメリカ海軍とともにソ連の原潜を追い続けた経験も含めて、日本の対潜水艦能力は世界最高クラスを誇っています。
その他の注目すべきポイントをあげておくと、中国の悲願である台湾制圧を実現させるためには多くの兵士を台湾に送り込まなければいけませんが、中国はこの揚陸能力が非常に低く、強襲揚陸艦の開発を急いでいるとされています。2021年から中国の新型強襲揚陸艦075型が配備されており、ヘリコプターは約30機搭載可能で、上陸作戦時には約1200名もの兵隊を送り込むできることがされるとされています。現時点での配備数は2隻であり、これは台湾にとっては非常な脅威となっていますが、島国の日本にとっても他人事ではありません。
ちなみに、この任務はアメリカでは海兵隊が担当することでも有名で、日本も中国同様に専守防衛の原則からこの揚陸機能が非常に低いとされています。それを補うため、米国の世界最大の強襲揚陸艦アメリカ級が在日米軍には配備されており、これは約2000人の兵員を送り込む能力があるとされる最新鋭艦となります。
ロケット軍
ロケット軍は中国軍独特の軍種となり、中国人民解放軍の三軍である陸・海・空軍から独立した、一個の軍種を構成しています。中国は昔からアメリカの空母に対抗するためにロケットを非常に重要視してきましたが、2015年に正式に火箭軍(ロケット軍)と命名されました。その詳細は不明ですが、総兵員数は10万人以上と言われています。
核弾頭数は米国の約6000発に対して、中国は1000以下と見られており大きく見劣りはしていますが、それでも中国のミサイル軍は大変注目されています。これは米国がソ連と1988年に結んだ中距離核兵力INF廃止条約により、地上発射型の中距離弾道ミサイルや巡航ミサイルの開発制限を受けたのに対して、条約の制限を受けない中国が中距離弾道ミサイルで優位を保っているとされているからとなります。特に推定射程距離4000kmの中距離弾道ミサイル東風26号(DF-26)はその射程距離からグアムキラーとの別名がつけられており、多く配備されていると言われています。これに警戒を強めた米国は、トランプ政権時代の2019年に条約を破棄し、中距離ミサイルの開発を急ピッチで進めることになりました。
その他にも、中国は射程距離1500km程度の対艦弾道ミサイル東風21号(DF-21)の開発に力を入れており、これは第二列島線より接近したアメリカの空母打撃群を攻撃するためのもので別名空母キラーとも呼ばれています。中国は、空母をはじめとする海軍兵力でアメリカに見劣りするため、台湾有事の際に、アメリカ軍の干渉を防ぐ事ができるこのミサイルの開発を進めており、特に同時に100発以上のミサイルを発射する飽和攻撃をされたら防ぎきれないとされています。
近年この空母キラーミサイルの情報が中国から相次いで公開されており、爆撃機への搭載、そして中国版イージス艦から発射する姿などが確認されており、迎撃することが困難であるため、空母の優位を覆すものとして大変注目されています。
結局、中国軍は強いの?
さて、ここまで日本、中国、米国の兵力を詳細にみてきましたが、最も興味がある、中国軍は強いのかという問題を考察していきたいと思います。
①実戦経験と練度低い問題
中国は1949年の建国以来、戦争経験が比較的豊富であるとされています。チベット併合に1950年からの朝鮮戦争、3度の台湾海峡危機、そして1962年からつづく中印国境紛争、ベトナム戦争への支援、1969年の中ソ国境紛争、1979年の中越戦争など何度となく軍事衝突を経験しています。しかしながら、陸海空軍が高度に連携して戦う近代戦の経験は非常に低いとされています。直近で発生した最も大きな戦争が1979年の中越戦争ですが、これもアメリカとのベトナム戦争を戦い抜いたベトナム軍に苦戦しています。また、特に海軍については、強化を開始したのが比較的最近であるため、中国海軍は敵の艦艇を沈めたことさえないと揶揄されています。現在の中国軍の兵器は近代化されていますが、実際に軍隊を展開して近代戦闘の中で運用した経験がなく、また軍隊がビジネスを行うなど兵の練熟度も低いと見られています。
2019年にベトナム沖で中国の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦がベトナム漁船の前で浮上し写真が撮られるという事件が発生して話題になりました。これは核ミサイルを搭載した戦略原潜であり、普通であれば絶対に浮上してはいけない機密の塊のような潜水艦なのに、故障なのか理由はいまだに不明ですが、不用意に第三者の前で浮上して撮影されてしまったため中国軍の練度の低さを露呈する象徴的な出来事とされました。また、2021年には戦略原潜が台湾海峡を浮上航行し大きな話題となりました。台湾への威嚇という見方もありましたが、「弾道ミサイル原潜の浮上航行はほぼ前代未聞だ」と米国の軍事専門家が逆の意味で驚いていました。
ちなみに、潜水艦にはそれぞれの艦に特有のスクリュー音があり、この音紋を解析することにより特定が可能となります。日本にはこの音紋を解析する、もっとも秘密の多い艦といわれるひびき型音響測定艦が3隻体制で運用されており、情報を収集していると言われています。潜水艦が容易に姿を現して航行する事がいかにタブーかこれで分かると思います。
ちなみに日本は実戦経験こそありませんが、その練度は非常に高いとされています。航空自衛隊が米国のエリートパイロットとして有名なトップガンと空対空の演習した際に、命中率96%という驚異的な数字をたたき出して大変驚かれたことがあります。また、自衛隊と米海軍の合同演習でも、米国の駆逐艦が日本の潜水艦に全く気付くことなく撃沈判定を受けたというのも有名な話となります。
②統合作戦能力が低い問題
現在、中国空軍は第五世代戦闘機を有しており、スペック通りであるとすればその戦闘力は非常に高いとされています。しかし、現在の空中戦で大規模なドッグファイトはありえず、より高度な早期警戒管制機AWACSを持つ方が圧倒的に有利とされています。AWACSの巨大なレーダーにより上空から周囲数百kmの敵機を監視し、発見と同時に味方機に迎撃を指示し、射程の長いミサイルで敵機を撃墜するというのが現代の戦い方であり、敵は敵機を見ることなく、撃墜されることになります。これは空中戦に限った話ではなく、中国はすべての面でこのような早期警戒や全体管制の技術・運用ノウハウで劣っているとされています。
このような、瞬時にデータリンクされる高度軍事情報システムは、(Command〈指揮〉 Control〈統制〉 Communication〈通信〉 Computers〈コンピュータ〉 Intelligence〈情報〉の頭文字をとってC4Iシステム(シー・クォドルプル・アイ)と呼ばれます。この高度な軍事情報システムで圧倒的に世界の最先端を行っているのが言うまでもなくアメリカで、日本はこのアメリカのシステムに準じたシステムをもっており、米国ともデータリンクされていると言われています。これに対した時の中国軍のシステムは絶望的な状況で差があると言われています。
ちなみに、このC4Iシステムから作り出される共通作戦状況図COP(Common Operational Picture)は、分単位で戦況を分析し意思決定を支援すると言われており、今回のロシアのウクライナ進攻でも米国はかなり詳細に状況を把握していると考えられています。
③使えない空母論
2012年に中国初の空母遼寧が実戦配備されたことは非常に有名ですが、これは旧ソ連時代に開発された時代遅れの空母をウクライナ経由でスクラップとして購入し改装した空母になります。また、その後、遼寧を研究して中国が独自に建造した、同じスキージャンプ式を採用した2番艦となる山東も就役しています。この二つの空母については「張りぼての虎」「実戦での戦闘力はない」などと酷評される事が多いのですが、その艦載機の規模からしてアジア最強の空母であることは間違いありません。しかし、それはアジアには対抗する空母を持つ国が無いためであり、兄弟機となるロシア海軍の空母「アドミラル・クズネツォフ」が、故障・事故続きで運用が停止されていることを考えると、これをベースとしている遼寧と山東の実力もやはり低いものと考えざるをえません。
ちなみに、よくネット上で空母は「実戦配備」「訓練」「点検・修理」のローテーションで3隻ないと実際には運用できない、という意見をよく見るのですが、アメリカ以外で唯一原子力空母を運用するフランスは一隻のみ、英国も空母を2隻のみで運用しており、3隻神話というのはあまり信ぴょう性がある話ではないように思えます。
遼寧と山東は艦載数が最大で50機、現実的には30機程度となっており、米国空母との性能差は天と地ほどあり、アジアの小国を恫喝するのには使えても、アメリカを相手にすることはできないとされています。2024年から配備が開始される3隻目の空母は電子カタパルトを装備するなどスペック的には米国の空母に見劣りしませんので、その実力が評判通りであれば一定の脅威となる事は間違いありません。中国は最終的に6隻程度の空母の取得を計画しているという見通しもありますが、原子力空母11隻体制の米国との差はまだまだ大きいと見られます。
また、軍隊においては、空母の運用こそが最も費用が掛かる部分であり、中国がその費用を捻出できるのか、という点においても難しいという意見があります。空母打撃群は、取得に大きな費用が掛かるだけではなく、維持・運用にも年間数兆円という費用が掛かり、いくら中国と言ってもその負担は大きいとされています。
④結局は役に立たない弾道ミサイル?
米国は圧倒的なシーパワーに裏打ちされた、高い統合作戦能力をもち、有事の際には世界中のどの地域へも短時間で軍隊を派遣できます。とくに、その空母打撃群は圧倒的で、現在の中国は沿岸部に主要都市が点在しているため、中国は常に海からの脅威にされされてきました。ひとたび、米国との戦争が発生すれば、米国の空母が想像以上に短期間で派遣され、艦載機により一気に制空権を奪取される可能性があります。そこで、中国は海軍力の強化をはかってきたわけですが、その実力はまだまだ不十分であり、それを補うために中距離弾道ミサイル開発を重視し、空母を近づけないという戦略をとってきました。中国にとっては第一列島戦の中に米国空母打撃群を入れたくないわけです。
先ほど話題が出た空母キラーやグアムキラーによる台湾・沖縄・韓国の米軍基地、日本基地、日本主要都市やグアムなどへのミサイル飽和攻撃が脅威として上がってくるわけですが、日本や米国は海上ではイージスシステムなどの弾道ミサイル迎撃システムを配備しており、陸上でもミサイル迎撃用のパトリオットミサイルを配備しています。また、特に日本のレーダーの探知距離は長く、探知距離は4000kmと中国のほぼ全土をカバーしてこの脅威に備えています。また2017年には韓国に最先端のTHAAD、弾道弾迎撃ミサイル・システムが配備され、首都北京がレーダー範囲内にはいるため中国がこれに強く反発したニュースが大々的に流れて話題になりました。
このように空母打撃群や中国周辺のアメリカの同盟国には強力なミサイル迎撃網が配備されていますが、本当に中国がミサイルで、空母ではなく、沖縄やグアムを攻撃した場合にはさらに悲惨な状況になると言われています。戦争において空母が撃沈されるのは非常に衝撃が大きいのですが、その被害は軍隊の範囲内のみとなりますが、グアムや沖縄をミサイル攻撃するという事は、民間人まで被害が及ぶ事を意味し、これは米国にとってはパールハーバーを想起させ、 米国は瞬時に大規模な反撃を展開して中国の主要基地への強力な報復をおこない、中国側が数倍の被害を被ることになるだろうというのが大方の見方となっています。
また、中国の周辺という意味では、グアム、日本、韓国、オーストラリアに大規模な米軍基地が配置されており、反撃を受けないためには、空母打撃群に加えて、これらの基地を中国が同時に叩く必要がありますが、これはほぼ不可能であり、それを行えば、一気に4か国と戦闘状態になってしまいます。ちなみに、米国・インド・日本が行っている軍事演習マラバールでは、2017年に日本からいずもが参加して3か国の空母がすべて揃い大変注目を集めましたが、2020年にはオーストラリアもこれに参加しており、太平洋での国際的な連携が進んでいます。
また、空母打撃群を封じられても米軍には「見えない空母」と言われる巡航ミサイル原子力潜水艦が4隻あり、1隻あたり巡航ミサイルトマホークを154発積むことができ、報復という意味ではこれらの潜水艦が第一列島銭の中に入り込み、ピンポイントで中国のレーダーや宇宙監視の地上施設を攻撃してまず「目」を奪い、その攻撃力を無力化すると見られています。中国はこの潜水艦を見つけ出す能力が低いことが課題となっています。
このように様々な角度から見ると、結局は中国軍は有効に弾道ミサイルを使用できないのではないか、と言われています。一方、中国の弾道ミサイルによる飽和攻撃は、実は最も防御が難しく、日本が最も警戒しなければいけない攻撃であることは間違いなく、中国の軍事専門家が想定する交戦シナリオでは、このミサイル飽和による日本基地や空母の沈黙化が必ず含まれることを注意しておかなければいけません。
⑤スペックを下回る性能論
一時期、中国が日本に新幹線の技術を提供させておいて、これを国産新幹線技術だと大宣伝したため大きなニュースになった時期がありました。世界最高と言われる日本の新幹線技術をベースとして、丸パクリした中国の新幹線は現在、大変順調に運用されています。
一方、昨今中国も軍事技術を国産開発していることを誇っていますが、実際には、空母などもロシアの技術をベースにしています。中国軍の技術は独自開発、国産と言っても、結局、その大半はソ連、ロシアの技術をベースとしており、特に情報処理面で、米国に圧倒的に遅れた技術がベースとなっているため、スペック通りの性能は無いのではないかと疑われています。こればかりは真実は戦ってみるまで分からないため、中国軍をなめてかかる事はできませんが、その実力に疑問を持っている軍事専門家は世界に多くいます。
孫子の兵法に「兵は詭道なり」とあり、出来ないことを出来るように見せかける、ことが重要であるとしています。これは台湾や東南アジア諸国を恫喝することに非常に効果的で、また中国国内の国威発揚にも大きな効果があると言われていますが、多くの国が中国軍の実力を疑っていることもまた事実です。
とはいえ、出来ないことを出来るように見せる事以外にも、逆に、出来ることを出来ないように見せかけることもあるため、その実力の見極めは慎重に行うべきです。
結論
脅威派:中国軍は近年急速に軍事力の近代化を進めており、その軍事力はすでに自衛隊を凌駕し、米国に並ぼうとしている
張りぼて派:量的には拡大しているが張りぼての空母に代表されるようにその兵器は結局まったく役に立たない
さて、これまで見てきたように、冒頭に示した脅威派と張りぼて派の二つの認識はどちらも間違っており、どちらかというとその中間的な認識がもっとも現実に近いのではないとか思われます。中国の軍事力はすでに脅威となる段階まで到達しており、恐れすぎてもいけませんが、過度に楽観視することはできないでしょう。
米国目線でみると、たとえば空母に関しては、今後10年、何の対策を打たなかったとしても、アメリカの優位はまったく変わらないという意見があります。おそらくこれはその通りでしょうし、実際には対策は打たれるため、その差は永遠に埋まらない可能性さえあります。中国もその事はよく分かっており、だから軍事力による直接的な衝突の可能性は、現時点ではきわめて低いと言われています。
日本が単独で中国と戦った場合には、量的な優位は覆しがたく、中国軍の方が戦力が上であると見られますが、実際には日本は米国と軍事同盟を結んでおり、この軍事同盟は非常に重い物であり、日本が侵攻を受けた場合、それは即時の米軍の参戦を意味します。そのため、単独で日本と中国の戦力を比較することにあまり意味はありません。もしも戦争が発生した場合でも、米主力艦隊が援軍に来るまでの時間を稼ぐことは自衛隊の軍事力をもってすれば十分に可能であり、潜水艦を中心とした対応で上陸は防げるというのが大方の見方となります。
このような状況下、現在議論しているように、GDPの2%まで軍事費を引き上げるのは、パワーバランスを保つためには正しい政策であり、逆説的にはなりますが、安易に軍事行動を起こさせない、唯一の方法となります。
ちなみに、核兵力は現在の戦争では使用されませんし、仮に使用した場合、それは使用した国の破滅を意味することになります。
中最後に~ウクライナの教訓
話をすこし変えて、昨今のロシアのウクライナ侵攻を機に、台湾も同様になるのでは、という意見が出されています。しかし、今回のロシアのウクライナ侵攻から得た教訓は、侵攻を受けた国がたとえ小国でも、そこそこの自衛能力があれば、十分に対抗ができる、という事実でした。国民全員での徹底抗戦、ゲリラ戦法を取れば、防御側が圧倒的に有利になるというベトナム戦争の教訓を皆が思い出した瞬間でもありました。
ちなみに、冒頭に出てきた世界の軍事力ランキングではウクライナは22位となっていますが、台湾はその一つ上の21位となっています。台湾は、ヨーロッパや米国から武器を多数購入しており、ウクラ イナよりも高い防衛力を持っていると考えられます。米国議会でも「ウクライナ紛争の教訓は、台湾による独自の能力開発が重要ということだ」という意見がだされてました。
また、ロシアから得た教訓の2つ目は、独裁体制はやはり脆いのではないか、という事です。圧倒的に勝利が出来るのであれば良いのですが、ひとたび不利になるとその権力基盤は、もともと軍事力をベースとしており、国民の心からの支持を得られていない以上、砂上の楼閣のようにもなります。中国が軍事力を背景とした軍事独裁体制の性格をもっていることはさきほど説明しましたが、共産党が戦闘でひとたび不利になれば、国内に抱える不満が一気に噴出し、これを抑えきれなくなる可能性もあります。
中国は国内では、チベットやウイグルなどのエスニックマイノリティを弾圧し、民主的な知識人を弾圧し、国民とも必ずしも安定的な関係を築けていません。また、台湾問題は、中国では国内問題と認識されていますが、アメリカは台湾関係法を成立させて明確に干渉する構えを見せており、台湾問題は台湾が中国を再統一できるのか、という少し前の問題認識ではなく、現在では台湾は中国から独立できるのか、というある意味チベットに近い問題となっています。また、国際関係でも、共産党は世界の大国である米国や日本と安定的な関係を築けておらず、日本の尖閣諸島を含めて、ベトナムやフィリピン、インドなどの周辺国と国境紛争も抱えて対立問題をおさえるために軍拡を勧めざるを得ません。これを、最近では「力による一方的な現状変更」と呼んだりもしますが、日本と米国は連携して、これを許さない、という姿勢を見せ続ける事が大変重要となります。力による一方的な現状変更を許さないためには、バランスオブパワーの原則で、日本が力を持つことがこそが最も重要となります。力の均衡こそが対話を続ける鍵となることを冷静に理解しておく必要があります。
このような状況の中、共産党は一党独裁体制という自己同一性を保とうとする限り、国内外の問題をおさえるために軍拡を勧めざるを得ません。日本と米国の軍事力のみが、中国を国際秩序の中に押しとどめ対話を続けるために必要となるため、日本の軍事力強化が大変重要になる、という客観的な事実を認識して、今回のお話しを終了したいと思います。