中国歴史上でも屈指の奇書として、中国のネットなどではたびたび話題となる清代の海洋生物図鑑『海錯図(海错图)』を今回はご紹介したい。この本はあまり日本では紹介されたことが無いが、近代中国史上、文字による解説と絵が最も内容が充実した海洋生物図鑑でもあった。乾隆帝時代の1726年に皇帝の手に渡るとその内容の面白さから歴代の皇帝に愛読されたという。現在では原書は1~3巻が北京故宮博物館に、4巻が台北の故宮博物館に収蔵されている。
この本を書いたのは?
作者の聂璜(Niè huáng)(ニエ・ファン)は杭州の出身で、中国各地を旅しながら自らの眼で実際に見たものや噂で聞いた海洋生物をかき集めて300種類以上を収録した『海錯図』を制作した。その内容は、非常に正確なものもあれば、誇張されたもの、全く想像のものもあった。というのも、作者は学者でもなんでもなくただの海洋生物の愛好者であったという。実際に、この本が誰のために作成されたのかは定かではないが、自らの趣味で作成されたものであろうと言われている。死後40年以上たってから、ある宦官によって乾隆帝に献上されたという。
この本はどうして中国で話題になったのか?
それでは実際に、この本を奇書として、中国のネット界隈で有名にした画像をいくつか紹介しよう。ちなみに、作者は自分で見たもの以外は、外国の商人や各地の漁民に聞いたものを絵に起こしたと言われている。
最も有名な人魚の絵。西欧の人魚に比べたらだいぶおっさんである(笑)非常にインスタ映えする(笑)広東省で大雨の時に大きな魚に乗っているのが目撃されたと説明されている。また、言葉は話せず、笑っているだけのようである。
鬼頭タコ。もう完全に萌え系のスタイルである。狙っているとしか思えない。上海郊外で発見された、足がタコで、頭が和尚さんのようなタコとのこと。
上のタコと完全に同類の、上海近郊で漁民が捉えたと紹介されている長寿のタコ。どうも縁起が良いようである。
海を騒がす海竜。頭には角が一つはえており、足が四本ある。文字が切れており定かではないが、康熙26年に漳州(しょうしゅう)市=福建省南東部に位置する小さな都市で目撃されたようである。
動物の王である竜。二つの角をもった、これぞ竜という感じの竜である。これが海洋生物なのかは不明であるが・・・。
というわけで、この本が奇書と呼ばれる由縁がお分かりいただけ多だろうと思う。300年以上前の本とは思えないゆるキャラぶりである!
わりと実物に近い生物たち
そろそろゆるキャラにはお腹一杯だと思うので、今度はわりと実物に近いものをご紹介したい。
ジャノメハゼ。マイナーすぎてわかりません!でも実物そっくりのようです。
イルカ。目ぢから有り過ぎですが、まあイルカでしょう。内臓がほかの魚とちがって、豚(哺乳類)に似ているから感じで海豚と呼ぶらしいです。
炭を吐くイカ。これはさすがに実物そっくりですよね。
真珠貝だそうです。口から吐いているのはビームではなく、真珠です!
巨大タコだそうです。大きいかどうかは別としてタコとしては実物そっくりです。
シュモクザメ。いわゆるハンマーヘッドというやつですね。これも若干目ぢから強めですが、まあ実物に近いでしょう。
カブトガニ!これは最も写実的ですよね。実は80%以上の掲載生物は実在してそこそこ実物に似た形で描かれているようです。
突っ込みたくなる生物たち
最後に、それはちょっと違うだろ!と突っ込みたくなるものをいくつかご紹介します。実在する?実在しない?噂だけで適当に描いたのではないかと疑いたくものを集めてみました。
クジラだそうです。完全に別の生き物のようですが、潮を吹いているあたりにクジラの原型をとどめています。
海狗(海イヌ)だそうです。青い色が印象的!
海鹿と海鼠だそうです。もう、普通の鹿と鼠だろう!と(笑)
海豹だそうです。なんかエジプトの壁画に出てきそうな絵ですね。
海馬だそうです。カバ(河馬)ではありませんよ!馬の原形はほぼありません。
ワニ。古来ワニは中国に生息していたようで、様々な文献に登場するが、大陸で人口が増えるに従い、あまり見られないようになっていたようである。この文献が書かれたころには希少生物だったようで、ワニというよりも大型トカゲのように描かれている。
まとめ
というわけで、清代の奇書「海錯図」をご紹介しました。全般的にゆるキャラ多めで、ネットで人気が出るのも分かります。簡単に外出できなかった清の歴代皇帝が心を躍らせながら読んでいたと思うとロマンありますよね。