西太后と言えば、権力を思いのままに操った悪女で、清の滅亡を決定づけたとしてマイナスのイメージが強いと思う。一方で、西欧列強の帝国主義のなかで、西太后という強い権力がなんとか清という国を持続させていたという面もあり、西太后がなくなるとすぐに清は滅亡してしまった。そのような中、清滅亡の裏側には、実は「西太后の呪い」があったのをご存じであろうか?今回は、西太后の知られざる一面と、歴史ミステリーを解説したい。
西太后の影と光
西太后の呪いを解説する前に、まず西太后の良い面と悪い面を簡単にご紹介したい。
西太后といえば、中国三大悪女に数えられる。ちなみに、中国三大悪女とは、①漢の高祖劉邦の皇后である呂后(ライバルであった戚夫人の両手両足を切り落とし、目玉をくりぬき、薬で耳・声を潰し、その後便所に置いて人豚と呼ばせ、そのさまを笑い転げたと言われている)、②則天武后(唐を中断させ周王朝をたてる)、③西太后、と名前が挙がる。
ほかの二人がなかなかの悪女ぞろいであるが、西太后にも以下のような伝説がある。
1.ライバルの麗妃の手足を切断して甕の中で飼った
2.医者と結託して光緒帝を病弱だとして療養させて、政治を裏から操った
3.光緒帝が最も寵愛した珍妃を井戸に投げ込んで殺させた
4.康有為・梁啓超ら変法派が光緒帝を抱き込み明治維新と同様の立憲君主制による近代化を目指した戊戌の変法を潰して清の自滅を決定づけた
5.戊戌の変法を潰された恨みを持っていた光緒帝を自分が死ぬ一日前に毒殺した
6.自らの誕生日に合わせて莫大な資金をかけて頤和園を造営させ、日清戦争の戦費を圧迫して、敗因の一つを作った
上げれば枚挙にいとまがないが、どれが本当で、どれが嘘なのか?
正解を言うと、嘘は1のみで、5は最近の調査では、光緒帝の毛髪から毒物が検出され、どうやら毒殺されたのは本当そうであるが、西太后と一緒に戊戌の変法を潰した袁世凱犯人説や、西太后に寵愛されていた宦官の李蓮英犯人説などがある。
一番残虐そうな1は嘘とは言え、かなりの悪女であることは間違いない。
一方、光の部分でいうと、上記の1とは真逆で、嫉妬深いというのは俗説であり、かつてのライバルであった側室たちは危害を加えられることなく後宮で生活していたという。
西太后の呪い(=エホナラの呪い)の歴史ミステリー
清滅亡の裏に、西太后の呪いがあったというのはご存じであろうか?正確に言うと「葉赫那拉(エホナラ、イェヘ=ナラ)の呪い」である。
そもそも西太后は中国では一般的には慈禧太后(cí xǐ tài hòu、じきたいこう)と呼ばれているのであるが、満州の名門貴族である葉赫那拉(Yè hè nà lā、エホナラもしくはイェヘ=ナラ)氏の出身である。
イェヘ=ナラ氏は、もともとは女真族の3大集団である海西女真のイェヘ部の首長を世襲してきた。しかし、建州女真のヌルハチが1616年に後金(清の前身)を建国すると、これを攻撃する。
イェへ部の最後の首長である金臺吉(ギンタイジ)はこれに徹底抗戦するも、最終的には破れ、死ぬ間際に「ヌルハチの一族に、葉赫那拉の人間が一人でも加われば、その者がヌルハチの一族を滅ぼすであろう」という呪いの言葉を残したと言われている。
ホンタイジは故宮を建築する際に、基礎の石に「清を滅ぼすものは葉赫那拉である」と刻んで戒めたという伝説もあるが、実際にこの石が発見されているわけではない。
清の建国の際にかかった呪いが、最終的に清を滅ぼすことになったわけである。まさに歴史ミステリー。
歴史の真実は?
しかしながら、実は、西太后の前にも、葉赫那拉出身の女性を后妃にした皇帝は居たのである。また、清の公式文章にこの呪いの話は出てこず、民間伝承に残っているのみで、どうも後で作られた話ではないか、という疑いがもたれているのである。
事実、西太后の政敵がこの事実を利用して、西太后を排除もできたはずであるが、そのような動きがあったという記録もない。
ちなみに、中国・香港合作映画『西太后』(1985年日本公開)や浅田次郎の小説『蒼穹の昴』などでもあたかも事実のように紹介されているが、実際には、西太后の死後、もしくは権力を握ったのちに、西太后を恨んでいた人によって作られた噂の可能性が高いようである。
まとめ
以上、清朝の建国と滅亡をつなぐミステリーをご紹介したわけであるが、このような歴史の話に興味があれば、ぜひ上でご紹介した映画『西太后』や『蒼穹の昴』を読んでみることをお勧めする。
きっと今までは知らなかった世界をのぞいて、知的好奇心を刺激されるはずである。
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