ココがポイント
中国市場で大成功している日系企業というとどこを思い浮かべるだろうか?そこそこ成功している企業と言われると私は、コンビニ各社やユニクロ、トヨタ自動車あたりはそこそこ健闘していると思う。また、あまり目立たないところではあるが、やはり商社などは深く中国市場のサプライチェーンに入り込んでいると思う。逆に苦戦している企業というと、各種メーカーが思い浮かんだりする。私は企画の責任者をしていたが、昔、日本企業が中国市場で失敗するのはなぜなのか?を考えた事があるので共有したいと思う。
大前提〜中国市場の変化〜
2010年あたりから、日系企業が主に展開している沿岸部の大都市圏のマーケットが大きく変化した。それまで、世界の工場と言われていたが、経済の成長により物質的な豊さから精神的な豊かさや生活の質を求めるように変わった。
また、このタイミングにあわせて、中国でEコマースが大きく普及し、いまや日本以上のネット大国、IT大国となっている。また、中国企業が安かろう悪かろうから、高品質や中国風、イノベーション重視に変化した。
これらの変化により、中国企業は日本企業とは異なるケイパビリティーを入手した。それは、日系企業を凌駕する経営スピードやリスクを積極的に取る攻めの経営姿勢、業務イノベーション力などである。まだまだ日系企業が優位なケイパビリティーも多いのであるが、中国の競争環境においては、中国企業が獲得したケイパビリティが無いと生き残っていく事が出来なくなっている。
日系企業の典型的な失敗要因10
①統一された長期的な戦略が存在しないもしくは、戦略-戦術が一貫していない
日系企業はボトムアップで現場が強い場合が多いため、グループ法人や事業部がバラバラに中国に進出しており、統一された戦略がない場合が多い。中国の責任者として、総代表などを置いている企業も多いが、実際にそのような人と話していると、なんの権限もない場合が多い。
②製造拠点という位置づけで中国市場で成長するためのリソース(投資・人員等)が不足
もともと製造拠点として中国に進出した企業が多いのであるが、経済がここまで発展してくると市場としても重要になってくる。しかし、体制がついていかず、市場開拓するのに相応しいリソースを投入できている企業が本当に少ないと感じる。売りが無いとリソースを掛けにくいのはよく分かるのであるが、リソースを先行して投入しないと売りも付いてこない。
③コスト勝負の市場で戦っているがコスト競争力が低い
中国市場の競争は非常に激しい。日本にいると分からないくらい厳しい市場である。販売価格を維持出来るブルーオーシャンな市場は本当に少ない。特に民生向けの消費材はコスト勝負を避けられないのであるが、日本の高品質、などをうたい文句に不当に高い価格で売っている場合が多い。いまや、そのような手法は中国市場では通じない。中国企業と同等のコスト力をつけて行かないと競争には勝っていけないのである。
④日本の製品・ノウハウに拘泥しすぎた商品の開発・販売を行っており、いつまでも中国市場ニーズに対応できない
中国市場は大抵の場合、日本市場とは全く異なる事が多い。日本向けの商品や日本で成功したマーケティング手法をそのまま持ち込んでも通用しない場合がほとんどである。それは、日本の26倍という国土と地域別の文化の差、生活習慣の違いなどがあるためであり、モノカルチャーの日本的な手法を中国風にアレンジしなければ成功できない。
⑤中国側の責任・権限が不明瞭で、大胆な施策実行が困難
日本企業は権限委譲が本当に下手くそである。欧米企業などに比べるとやはり明確に差が出ている。現地がある程度独立した戦略を遂行できるように、ヒト・モノ・カネの権限を現地に委譲していかなと競争には勝てない。
⑥日本ルール適合を求めるためリスクが取れず成長に乗り遅れ
日本人は“課題予兆型”で事前に各種シミュレーションや入念な準備、根回しをする事が会社で明確にルール化されている事が多い。しかし、中国企業は“課題即応型”である事が多く、まずやってみて課題が発生したら対応して走りながら解決する、というスタンスを取ってくる。成熟市場では日本企業のやり方が良いことも多いのであるが、中国のように高速で成長・変化している市場では、課題即応型でリスクを取っていかないと競走に勝てない場合が多い。
⑦意思決定が遅く市場のスピード感に合わない
とある自動車メーカーの人に聞いた事があるのであるが、新車開発で日系企業は3年かかるが、中国企業は1年しかかからないという事である。このように中国企業のスピード感はかなり速い。それに対応するためには、会社の仕組みや意思決定を高速化していかないといけない。
⑧中国を深く理解していない日本人経営トップが短期間でローテーションするため、現地の実情にあった事業運営が困難
未だに中国が嫌い、中国人は信用できないなどという経営者が中国に派遣されてくる事があるので驚くのであるが、やはり中国市場は言語や商習慣もかなり特殊であるため、中国を深く理解していない人ではなかなか戦略を正しく導き出せない。本当にゼロから中国を理解しようとすると3年程度は掛かってしまうのであるが、日系企業の経営者は短期間でローテーションをする事が多く、中国の実情に合った戦略をうまく立てられていない企業が多いのも事実である。
⑨中国にあうスピード感・チャレンジ精神を持った人材が確保できない/入社してもやめてしまう
現在の中国には若くても優秀な人材は非常に沢山いる。しかし、このような優秀な人材の給料は日本と同等かそれ以上に高くなっており日系企業では採用できない事が多い。また、入社しても、権限が無いために活躍できない、などの理由ですぐに辞めてしまうことも多い。
⑩政経一体の中国において、政治的アプローチが日本で理解されず、取り組みが後手に回る
日本やアメリカは非常に透明な市場であり、普通のビジネス活動で政治や政府を意識することはあまり無いのであるが、中国はちょっと趣が異なる。中国の政府幹部は経済を如何に振興したか、というあたりが非常に重視されるため積極的に企業誘致や産業政策に絡んでくる。さまざまな規制や、逆に優遇策を得ることも可能である。このような中国流の渉外活動を理解し、普段から政府幹部との関係を保っていかないとビジネスが上手くいかないことも多い。すくなくとも、ライバルである中国企業は積極的に政府を活用してくるので、競争という観点でも政経一体のアプローチの重要性を理解しておくべきである。
まとめ
というわけで、日系企業が中国で失敗する主な理由を見てきたが、一言で言うと何も特別な事ではなく「郷に入りては郷に従え」である。日本企業はすごい、日本経済は強い、などという時代はすでに過去である。
中国で成功するために何が必要なのかを考えて、ライバルの中国企業の戦略を冷静に分析する事がなによりも重要である。中国企業は、日系企業には考えられないありとあらゆる手段で競争優位の環境を作ろうとしてくる。ビジネス世界においては、それは卑怯な事でなく、生き残るために当たり前にやらなければいけない事なのである。
日系企業は紳士な会社が多いのであるが、中国企業のようにアグレッシブに、狼になる必要があるのである。