今回は中国の歴史と文化を知るために、普通の漫画好きではななかなか読まないであろう、ちょっとマニアックな中国の歴史をテーマにした漫画を紹介したい。と言ってもマニア過ぎず、エンターテイメントとしても十分に楽しめるものばかりを選んだので、是非ご一読あれ。
ちなみに、ちょっと中国好き・漫画好きなら誰でも読んでいるであろう「三国志」に代表される横山光輝の作品群や、今やあまりにも有名な「キングダム」、あまりにもファンタジー要素が強い藤崎竜「封神演技」などは今回は対象から外している。また、少女漫画にはあまり詳しくないので、面白いものがあるのであれば是非お教えいただきたい。
中国最大の混乱期春秋戦国時代を描いた「東周英雄伝」
日本で中国の歴史漫画といえばやはり三国志を思い出す人が多いと思うが、三国志よりも混乱を極めた春秋戦国時代を描いたのがこの漫画。別のサイトでは、“要は史記の超良いとこどり”バージョンであると評されていたが、まさにその通りであると思う。
特に解説しておきたいのは、この物語の舞台が紀元前770年~紀元前221年という所である。日本がまだ縄文・弥生時代だった時に中国ではこれだけ豊かな物語が展開され、歴史として残されていたのである。やはり中国恐るべしである。
作者は台湾人の漫画家の鄭問。独特の墨を多用した作風にファンも多かったようであるが、残念ながら2017年に亡くなってしまっている。なお、この作品は第20回漫画家協会優秀賞を受賞している。
物語は、短いエピソードのオムニバス形式になっているものの、故事成語の元となっている話がふんだんに入っている。中国文化や歴史のベースとなる物語ばかりであるので是非読んで、できれば覚えて欲しいものばかりである。
なお、私は中国古代の諸子百家の思想が大好きで個人的に色々と勉強しているのであるが、有名な孔子だけでなく、本作品の後半に納められている墨子も大好きである。是非読むことをお勧めしたい。
劇画タッチで描かれるさいとう・たかを版「水滸伝」
水滸伝の名前は聞いたことがあっても実際に読んだことがある人は少ないと思う。三国志で有名な横山光輝が初めて書いた中国の歴史物漫画が水滸伝であり、こちらを読んだ人もいるかも知れないが、私はかのゴルゴ13で有名なさいとうたかを版の水滸伝がカッコ良くておすすめである。
なおトリビアであるが、横山光輝水滸伝は1967~71年に連載されたもので、なんと日中国交正常化前である。そのためかは解らないが、一部原作に忠実でない部分や間違いがあるのであるが、このさいとうたかを版の水滸伝は1996年が初版のため比較的新しい漫画である。
『水滸伝』は明代に書かれた伝奇時代小説の大作であり、『西遊記』『三国志演義』『金瓶梅』とともに中国の「四大奇書」に数えられる。物語の舞台は宋の時代、賄賂によって荒廃した政治を正すために黄河流域の梁山泊に集った108人の義侠心あふれる“好漢(英雄)”が活躍する物語。いろいろな背景で集まった好漢たちが悪徳官吏を打倒し、やがては国を救う事を目指す。
このさいとうたかを版では108人が集うところまでしか描かれていないのが大変残念ではあるが、好漢たちが集うまでの物語をさいとうたかをの素晴らしい画力で描き出しており、読んでいて手に汗握り、一気に読み終えてしまった。
1000年たった今でも男の血を熱くさせてくれる作品であり、108人の好漢が集まった梁山泊は今でも志ある者が集まる場所の代名詞となっている。
水滸伝自体は大変多くの人が漫画化しているので興味をもったらいろいろと読んでみたら良いだろう。
謎の西夏王朝と西夏文字の謎を追う「シュトヘル」
私が中国の歴史の中で特に好きな西夏文字の謎を描いた大作。こんなマイナーな話をよくここまで描き切ったと感心してしまう。
物語のあらすじは、13世紀初頭、モンゴルがまさに西夏を滅ぼそうとしている時代、シュトヘル(西夏語で悪霊の意味)と恐れられる女戦士がいた。現代に生きる高校生の須藤がそのシュトヘルとして転生するところから物語が動き出していく。モンゴルは国を滅ぼすだけでなく、何故か西夏文字を忌み嫌い、その文字を根絶やしにしようとしていた。物語はチンギスハンの謎にも迫りつつ迫真の展開を見せていく・・・。
漢字に似ているが漢字とは異なり、しかも日本人の学者である西田氏などが1960年代に解読したということで、西夏文字に興味を持つ人も多いと思うが、西夏文字のミステリーをファンタジー調に描いている。
西夏王国(自らは大夏国と名乗っていた)は1038~1227年という大変激動の時代に、周囲を宋や遼、金、モンゴルという列強に囲まれながらも200年程度ではあるが現在の銀川を首都として盛強を誇った国である。
この国が利用した西夏文字は1227年に王国が滅亡した後も利用され続け、1502年まで利用された痕跡が残っている。これは何故か?この漫画はもちろんファンタジーではあるが、最終巻まで読むとその理由が分かるようになっている。その謎にはチンギスハンも大きく関わっている!まさに歴史ミステリーである。
その後、ずっと未解読の文字となっていたが、1960年代に再び解読されたのである。歴史好きとしては非常にロマンを感じる。西夏好きとしては、よくぞこの題材で漫画を描いてくれたものであると拍手を送りたい。
満洲国を主舞台に戦争の時代を描く「虹色のトロツキー」
昭和初期の満州国を舞台に、日本とモンゴルハーフの主人公が当時メキシコに亡命していたレフ・トロツキーを満州に招く「トロツキー計画」に関わり 、紆余曲折を経ながら自身のルーツや民族的なアイデンティティへと迫っていく物語。
この漫画の見所は、実在した人物や事象を忠実に描き出しており、この時期の歴史や満州国の実態に詳しくなれる事である。例えば、満州国のトップ大学であった建国大学や、満州事変を起こした石原莞爾がどのような人物だったのか、ノモンハン事件とは何だったのか、果てにはソビエト革命の指導者トロツキーに至るまで結構知識がつく。
また大本教の出口王仁三郎や合気道の植芝盛平なども登場するのであるが、私もこの漫画を読むまでこの2人が満州、モンゴルに渡っていたことを知らなかった。
満州国が掲げた理想と現実を調べながら読み進めていくと、戦争にかけた一部の人の理想と実際に起こった悲劇の対比がまた悲しくもある。
作者はあのガンダムの安彦良和であり、こんなバードな歴史漫画を書いているとは私も知らなかった。
ちなみに、ラストは私的には「そう来たか!」という感じで終幕を迎えてちょっと驚きはあったものの、だらだらと物語を壮大にしたくない、という著者の意図も感じたりする。
コロンブスの100年前に世界を航海した鄭和の物語「海帝」
大航海時代のコロンブスやマゼランよりも1世紀早く地球規模の遠洋航海を行った明の鄭和の物語。鄭和は何故7回も過酷な遠洋航海を行ったのか、本作を読めば理解できる(もちろんフィクションですよ!)
特筆すべきは、この時代に宝船(大型船)60隻、貨物船などを合わせると300隻以上、総勢27000人という大船団を組んで事であるが、なんと遠征の詳細な理由は明確になっていないという。後の時代に遠征に関する詳細資料が焼かれてしまったとの事である。
ちなみに、一番大きい宝船は100m以上あり、コロンブスの旗艦サンタマリア号の5倍の大きさであったという。またコロンブスの船団は約1000人のみであった。この鄭和の航海の規模の大きさは驚くばかりである。
鄭和はベトナムとチャンパ王国の抗争や、インドネシアで第三の人類に出会うなど、史実とフィクションを絡めながら進展していく。なお、この物語は現在連載中であり、今後の物語の展開が楽しみである。
まとめ 漫画勉強のすすめ
悠久の歴史を持つ中国の歴史を教科書的に勉強するのは大変苦痛であるが、漫画であれば面白く、興味をもって中国の歴史と文化を知ることができる。
これを私は漫画勉強と呼んでいるが、これを利用しない手は無いですよ!
今回紹介しきれなかった漫画でも面白いものはたくさんあるので、また機会を見つけてブログで紹介していきたいので乞うご期待。
<関連記事>その2はこちら
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